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「失敗したくない」大人の服とお手入れの話。狭い部屋に生まれた思いがけない余白

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クローゼットの奥で沈黙する、高い服と安っぽい私の決断

洋服クリーニング

クローゼットを開けるたび、一着のコートと目が合う。 それは3年前、三十路を迎えた記念に奮発して買った、少し上質なウールブレンドのロングコートだ。 買って満足したわけじゃない。むしろ逆だ。これを羽織ると、どこか「ちゃんとした大人の女性」になれた気がして、大切に大切に着ていた。 だけど今、そのコートは去年の冬の終わりからクリーニングにも出されず、クローゼットの端っこで丸まり、どこか肩を落としているように見える。

「着たい服」と「守りたい服」のあいだには、いつも小さな敗北感が漂っている。

毎週金曜日、婚活アプリでマッチングした相手と会う夜がやってくる。 飲食や美容の現場で約10年、たくさんの人の笑顔や「キレイになりたい」という切実な表情に触れてきた。人の魅力を引き出す仕事は好きだったし、接客の場で学んだ「人をキレイにするには、まず自分の心が整っていること」という言葉は、今でも私の軸になっている。 ……はずだった。

なのに、いざ自分が「選ばれる立場」として婚活の場に立つと、心は簡単にブレる。 相手に良く思われたくて、失礼のないように身なりを整えようとするけれど、気がつくと「失敗したくない」という保身ばかりが膨らんでいくのだ。

「サクラックさんって、いつもシュッとしていて隙がないですよね」 先週、カフェで面と向かって言われた言葉が、頭の片隅にトゲのように刺さっていた。 褒め言葉のつもりだったのかもしれない。けれど私の耳には、「なんだか近寄りがたい」「本当の姿が見えない」と言われたように響いた。

家に戻り、狭いワンルームの部屋でため息をつく。 部屋の隅には、冬を越した分厚いダウンジャケットと、件のロングコート、そして何冊かの婚活マニュアル本が積み上がっていた。 ワンルームのクローゼットは狭い。コート類を吊るしておくと、夏服を入れるスペースすら圧迫される。かといって、近所の格安コインランドリーやリーズナブルなクリーニング店に投げ込むのは恐ろしかった。 昔、お気に入りの繊細なニットを適当な洗濯コースで回し、見事に小学生サイズまで縮ませたトラウマがあるのだ。

「失敗したくない。でも、これ以上部屋が狭くなるのも、メンテナンスに振り回されるのも嫌だ」

服一枚すら適切に扱えていない自分が、誰かと人生を共にするなんてできるのだろうか。 ハンガーに掛けっぱなしのコートを見つめながら、私の心はまた小さく見栄を張ったり、落ち込んだりを繰り返していた。

クリーニング屋の受付で、私は小さな嘘をついた

美容業界にいた頃、同僚とよくこんな話をしていた。 「どれだけ高い美容液を使っても、肌の土台が荒れていたら全部浮いちゃうよね」って。

服も同じだ。どんなにおしゃれな服を着ていても、手入れが不十分でヨレていたり、部屋が散らかって心がざわついていたら、佇まいにどこか「焦り」が滲み出てしまう。

ある休日、私は決意して、近所にある昔ながらの個人クリーニング店にコートを持ち込んだ。 年配の店主が眼鏡の奥から私のコートをじっくり検品し、ボソッと言った。

「これ、カシミヤ混入ってるね。うちでも洗えるけど、風合い変わるかもしれないよ。あと、撥水加工はどうする? 汗抜きは?」

専門用語のラッシュに気圧された私は、後ろに並んだ他のお客さんの視線が痛くて、とっさに言ってしまった。

「あ、じゃあ普通のコースで大丈夫です! 撥水もいりません!」

大切にしたいと言っていたくせに、人前で「こだわりがある面倒な客」と思われるのが怖くて、つい適当な返事をしてしまったのだ。 結局、怖くなった私は「やっぱり一度持ち帰って考えます」と嘘をついて、重いコートを抱えて逃げるように店を出た。

初夏のぬるい風の中、重たい冬物コートを抱えて歩く三十路独身女性。 傍から見たら滑稽極まりない。 「私、何やってるんだろう」 服の手入れ一つまともにできず、見栄を張って嘘をつき、結局何も解決していない。 婚活で「隙がない」と言われたのも当然だ。私はいつだって、失敗するのを極端に恐れて、格好悪い自分を隠そうと必死だったのだから。

「守りたい服」と「捨てられないプライド」の狭間で

家に戻り、抱えて帰ってきたコートをベッドの上にバサッと置いた。 部屋を見渡すと、季節外れの洋服たちが主張している。 夏を迎えるというのに、視界の端には常にモコモコとした冬物の存在感がある。これが地味にストレスなのだ。

整っていない部屋は、整っていない心を映し出す鏡だ。 美容の現場で「心の整い」を謳っていた自分が恥ずかしい。自分の部屋すら、自分の心すら整えられていないのに。

そんなとき、婚活疲れでダウンしている私を見かねた友人からLINEが入った。 『サクラック、衣替え終わった? 私、宅配クリーニングの保管サービス使ったら部屋がめっちゃ広くなったよ』

宅配クリーニング。存在は知っていた。 でも、ネットで服を送るなんて少し不安だった。大事なブランド服や高級素材のものが、配送途中で紛失したり、雑に扱われたりしたらどうするのか。 第一、対面じゃない分、仕上がりに対する保証なんてあやふやなんじゃないか……。

慎重派という名の「疑り深さ」を発揮して、私はスマホを握りしめ、夜な夜な検索を始めた。 そこで目に飛び込んできたのが、イオングループが運営する宅配イージークリーニング【カジタク】だった。

画面をスクロールしながら、私の目が留まったのは「仕上がり満足保証付き」という文字。 万が一仕上がりに満足できなかった場合、やり直しをしてくれるというシステムだ。 さらに、最大数ヶ月間、適切な環境で服を保管してくれるサービスもあるらしい。

「イオン系列なら大手だし、変な対応はされないかな……」 「でも、ネットの口コミってどこまで信用できるんだろう?」

欲しいけれど無駄遣いはしたくない。失敗して後悔したくない。 買いたい気持ちと疑う気持ちが、いつものように脳内でファイティングポーズをとっていた。

パック料金だから、コートやダウンなどの単価が高い衣類をまとめて出せば、一着あたりのコストはむしろ実店舗の高級コースより抑えられるかもしれない。 何より、「最長数ヶ月間、プロの保管庫で預かってくれる」という点が、狭いワンルームで暮らす私には強烈な魅力に見えた。

「部屋からあの重苦しい冬物が消えたら、少しは気分が変わるかな」

クレジットカードの番号を入力する指が、ほんの少しだけ震えた。 また失敗したら笑ってやってくれ、とクローゼットの中の自分に言い聞かせながら、私は注文ボタンを押した。

送り出したあとの余白に、ふと気づいたこと

数日後、送られてきた専用の集荷箱に、あの思い出のロングコート、かさばるダウンジャケット、大事にしているジャケットなどを詰めていった。

箱のフタを閉じ、集荷のトラックに引き渡した瞬間。 部屋に、ふっと奇妙な「余白」が生まれた。

クローゼットを開けると、今まで冬物に圧迫されていたスペースがガラリと空いている。 服が減っただけなのに、まるで部屋全体の空気まで入れ替わったかのように軽やかだった。

「私、服だけじゃなくて『ちゃんと整理しなきゃ』っていう重圧まで抱え込んでいたんだな」

カジタクを利用してみて感じたのは、単に「服が綺麗になる」こと以上の解放感だった。 もちろん、利用する上で気になった点が全くないわけではない。 例えば、集荷用の箱に服を詰める際、シワにならないよう少し工夫して畳む必要があること。また、店舗に直接持っていけば「今日・明日」で仕上がるようなスピード感はないため、「今すぐ着たい」という急ぎの服には向いていない。 本当にワンコインで済ませたいような普段着のTシャツなどを出すと、パック料金の性質上、逆にもったいなくなってしまう。

けれど、ブランド品や大切に長く着たい服、そして何より「かさばって部屋を圧迫している冬物」をまとめてプロに任せるには、これ以上ない選択だった。

「失敗したくない」と頑なになっていたけれど、プロの保証やシステムに頼ることは、決して逃げでも手抜きでもない。 自分一人で何もかも抱え込まず、適切なサービスに「委ねる」ことで、心にゆとりが生まれるのだと知った。

数ヶ月後、カジタクからキレイにクリーニングされ、大切に保管されていた服たちが戻ってきた。 箱を開けて、あのロングコートを手にとる。 カサついていたウールの毛並みがしっとりと整い、新品のときのようなやわらかな風合いを取り戻していた。心配していたシワもなく、まるで丁寧に仕立て直されたかのようだった。

そのコートに袖を通し、鏡の前に立ってみる。

鏡の中の私は、相変わらず婚活に悩み、将来に揺れ、完璧とは程遠い顔をしている。 だけど、以前のように「隙のない自分」を作ろうとガチガチになっていた顔ではなかった。

「完璧じゃなくていいや。ダメならまた整えればいい」

鏡に向かって、小さく微笑んでみる。 自分を大切にするというのは、高い美容液を買うことだけじゃない。自分が心地よくいられる空間を作り、お気に入りの服を大切にお手入れしてあげること。そんな小さな積み重ねが、崩れやすい私の自信を足元から支えてくれるのかもしれない。

机の上には、淹れたての温かいコーヒーが湯気を立てている。 スマートフォンには、また新しい婚活のメッセージ通知が入っていた。

今夜会う相手には、見栄を張らずに、もう少し本当の私で話してみようと思う。 完璧じゃないけれど、昨日より少しだけ自分のことが好きになれたから。

あなたは今日、自分のためにどんな「余白」を作ってあげましたか?

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